メディカルサポネット 編集部からのコメント今回はコレステロール塞栓症について、村越真紀 順天堂大学医学部腎臓内科学講座准教授と鈴木祐介 順天堂大学医学部腎臓内科学講座教授が解説します。 |
▶診断のポイント
網状皮斑(livedo reticularis)と呼ばれる赤色や紫色の網目模様がみられる皮膚所見や,blue toe症候群と呼ばれる足趾に突然に生じる境界明瞭なチアノーゼなどの特徴的な皮膚所見のほか,潰瘍,壊死など,コレステロール塞栓症患者全体の約1/3で皮膚病変が認められる。眼底を観察し,Hollenhorst斑と呼ばれる網膜動脈の分岐部に明るい黄色の小片を確認できると本疾患の診断の補助になる。確定診断は,生検による動脈内のコレステロールクレフト(針状,半月状の間隙)の確認による。侵襲度の低い皮膚生検が最も多用される。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
脳内コレステロール塞栓症に対する確立した治療法はない。治療方針としては,大きく2つにわけられる。すなわち,塞栓を起こした臓器に対する治療と,塞栓の拡大や再発を防ぐ二次予防の治療である。
動脈硬化病変の部位,血流に散布されるコレステロール結晶の量,塞栓を生じた臓器によって臨床症状は多彩で,重症度も異なる。腎臓は障害を受けることの多い臓器であり,25~50%に急性腎不全を合併する。血管内操作などの誘因後,1週間程度経過して急激な腎機能障害を生じる場合は,大量のコレステロール結晶の散布が起こっていると考えられ,数週間以上かけて段階的に腎機能が増悪する場合は,塞栓が繰り返し生じていると考えられる。造影剤を用いた血管侵襲的手技(カテーテル検査など)の後に認められた腎障害では,造影剤腎症との鑑別が必要となる。抗凝固療法がコレステロール塞栓症の発症や増悪に関与しているかについてのエビデンスは不足しているものの,中止を検討することが多い(心房細動や機械弁での弁置換術後の患者の場合は継続が必要となる)。
コレステロール塞栓症はアテローム性動脈硬化症の症状であるため,喫煙,高血圧,血清コレステロール高値,高血糖などの従来の危険因子の治療が推奨される。特に血清コレステロールについては,スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)の投与がコレステロール塞栓症のリスクを低下させるといういくつかの報告がある1)。抗血小板薬がコレステロール塞栓症の再発を予防するという明らかなエビデンスはないが,アテローム性動脈硬化症の患者は心筋梗塞などの他の心血管イベントのリスクが高く,それらを予防するために抗血小板薬の投与は合理的と考えられる。同様の理由で,アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の投与が推奨される。
ステロイドの有効性は確立していないが,炎症反応がみられる時期にプレドニゾロン0.3~0.5mg/kg/日の少量が使用されている。ステロイド療法に加えて,LDLアフェレーシスを行うことにより,腎機能を回復させるという報告もある2)。その他,塞栓を繰り返す症例に対するステントグラフト内挿術や手術治療などの報告がある。
▶治療の実際
【発症リスクの予防的管理】
アテローム性動脈硬化症に対する治療を行う。
▶ 一手目 :肥満の是正,禁煙の指導
▶ 二手目 :〈一手目に追加〉リバロⓇ1mg錠(ピタバスタチンカルシウム水和物)1回1錠1日1回(最大4mg)
スタチン製剤はLDLコレステロール低下作用に加えてプラーク安定化作用があるとされる。
▶ 三手目 :〈一手目または二手目に追加〉ミカルディスⓇ40mg 錠(テルミサルタン)1回1錠1日1回(最大80mg)
血圧管理のため,投与する。
【急性腎不全に対する治療】
▶ 一手目 :輸液
脱水があれば,生理食塩水または細胞外液で補液する。
▶ 二手目 :〈一手目に追加〉ロケルマⓇ10g懸濁用散分包(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)1回1包1日3回(2日間)
高カリウム血症がある場合に投与する。
▶ 三手目 :〈治療変更〉血液透析
溢水,高カリウム血症,補正できないアシドーシス,電解質異常が存在する場合,血液透析を行う。
▶偶発症・合併症への対応
コレステロール塞栓症による臓器障害に対しては,個別の対応が必要である。
【文献】
1) Tunick PA, et al:Am J Cardiol. 2002;90(12):1320-5.
2) Ishiyama K, et al:Clin Exp Nephrol. 2017;21(2):228-35.
村越真紀(順天堂大学医学部腎臓内科学講座准教授)
鈴木祐介(順天堂大学医学部腎臓内科学講座教授)
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出典:Web医事新報
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