メディカルサポネット 編集部からのコメント「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」などでは、高齢となり、患者さんの意思決定能力が低下してきても、本人の意思の尊重に基づいた意思決定支援を行うことが明記されました。 出来る限り本人が理解しやすい形で示すなどして、本人の思いや意思を引き出し、決定に役立てたりその後の人生に生かすことが必要です。 意思決定支援に必要なSDMの考え方を三浦久幸 国立長寿医療研究センター在宅医療・地域医療連携推進部部長が解説します。 |
▶制度面の知識
「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」2),「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」1)等において,本人の意思決定能力がたとえ低下した場合においても,本人の意思の尊重に基づいた意思決定支援を行うことが明記された。
基本原則として,すべての人は意思決定能力があることが推定される(能力推定の原則)。
これらのガイドラインにおける意思決定支援においては,SDMの考えが採用されている。
▶主治医としてやるべきこと
在宅医療においてはSDMの考えに基づく意思決定支援を行う。
SDMの構成概念は次の9項目からなる。①意思決定の必要性を認識する,②意思決定の過程において,患者と医療者が対等のパートナーだと認識する,③可能なすべての選択肢を平等に情報提供する,④選択肢のメリット・デメリットの情報を交換する,⑤医療者が患者の理解と期待を吟味する,⑥患者の価値観・意向・希望を確認する,⑦選択と意思決定に向けて話し合う,⑧意思決定を共有する,⑨フォローアップ,である。この順番通りに実施する必要はないが,患者との対話の際は念頭に置く。
SDMにおいてはあらゆる可能な選択肢のメリット・デメリットを説明するが,この際にはできるだけ,エビデンスを用いた情報提供をする。リスクの高い医療行為の場合は,インフォームドコンセントを得るが,この場合もできるだけSDMの技能を用いる。
SDMの技能の修得には,世界的に評価指標として用いられているSDM-Q-9やSDM-Q-Doc3)を利用する。SDM-Q-9は患者による客観的評価指標,SDM-Q-Docは医師による自己評価指標である。
SDMにおいては治療選好のみでなく,患者の価値観,人生の目標の把握が重要で,この把握には,①患者自身あるいは近親者のこれまでの治療・ケア経験(たとえば「胃瘻栄養の家族を介護していたとき,どのような思いで介護されていたか」など),②現在の気がかり,不安(たとえば「今の病気が進行したら?」など),③これからの目標(たとえば「ひ孫が生まれるまで頑張りたい」など),を通じて把握する。
意思決定能力の評価では一般的に,①関連する情報を理解する能力,②状況とその結果を認識する能力,③論理的に考える能力,④選択を表明する能力,があるかどうかを評価し判定するが,意思決定能力はあるかないかという,二者択一的なものではなく,残存能力に応じた支援方法を検討することに用いられるべきである2)。
▶管理法と多職種連携
意思決定した内容の共有化の方法としては,書式による共有化の方法があるが,容易に書き換えができないことなどデメリットもある。このため,情報通信技術(information and communications technology:ICT)を用いた情報の共有化が望ましい。現在,地域で広がっている在宅医療・介護連携のICTシステムの利用などはセキュリティーも高く,情報共有には適切である。
診療所単独での意思決定支援は時間も限られ,限界もあるため,在宅患者に関わる多職種チームで,意思決定支援を実施することが望ましい。訪問看護師やケアマネジャーが日頃の患者・利用者の価値観,目標を把握し,話し合った内容をできるだけICTシステムに記録し,共有するなど,できるだけ1人のみに負担がかかることを避ける工夫が必要である。
本人をよく知る家族や後見人も本人の支援者のひとりとして,意思決定支援チームに加われるよう協力する。
【文献】
1)意思決定支援ワーキング・グループ:意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン. 2020.
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2021/ 20201030guideline.pdf
2)厚生労働省:認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン. 2018.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000 -Roukenkyoku/0000212396.pdf
3)Härter M, et al:SDM-Q-9 / SDM-Q-Doc.
http://www.patient-als-partner.de/index.php?article_id=20&clang=2/
三浦久幸(国立長寿医療研究センター在宅医療・地域医療連携推進部部長)
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出典:Web医事新報
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