メディカルサポネット 編集部からのコメント片側顔面痙攣は、ストレス,緊張,疲れ,睡眠不足,寒冷,喫煙などで症状が増悪し、痙攣症状がだいたい1カ月以上続く場合に片側顔面痙攣と診断されます。 今回は、その診断のポイントと治療法を林 明人 順天堂大学大学院医学研究科脳神経内科特任教授が解説します。 |
▶診断のポイント
【症状】
顔面表情筋の左右どちらかが痙攣する。痙攣部位は個人差があるが,上下のまぶた,口周囲,頰,顎,額,首の付近にも症状が出る場合がある。アブミ骨筋の痙攣により「コトコト」という音がする場合もある。痙攣の程度は変化することが多く,ストレス,緊張,疲れ,睡眠不足,寒冷,喫煙などで症状が増悪する。痛みは感じることはない。症状が1カ月以上続く場合に,片側顔面痙攣と診断される。診察時に症状が目立たない場合には,症状を増強させる方法として,目をぎゅっと閉じる,口角を強く引き上げて「イー」と言う,口をとがらせて「ウー」と言うなどをしてもらい,その直後での症状を確認するとよい。
【検査所見】
脳MRI・MRA検査にて,顔面神経根出口領域で後下小脳動脈,椎骨動脈,前下小脳動脈などの血管と接して圧迫されていないかどうかを調べる。また,小脳橋角部での脳腫瘍の有無も鑑別することが必要である。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
片側顔面痙攣の治療については,診断を確定した上で,患者の訴え,症状の程度や発症の期間をふまえて,治療選択できるように治療方法を提示し,患者の意思を尊重し決定していくことが最も大切である。
【鑑別診断・治療上の注意】
鑑別診断としては,疲れによる顔面ミオキミアがある。これは数週以内で症状が消失する。両側の顔面が痙攣する場合,ジストニアであることが多い。眼瞼痙攣やメージュ症候群,チックなどを鑑別する。顔面神経麻痺後の病的共同運動の場合には,顔面痙攣に準じた治療を行う。
▶治療の実際
【治療選択基準と治療方法】
患者への説明と理解のもと,治療方法を選択していくことが大切である。以下の4つの選択肢がある。
①治療せずに経過観察
必要な検査を行い病気についての説明を行うが,症状が軽度であり患者が治療を希望しない場合には,脳MRI・MRA検査のみ行い,経過観察する。患者が不安に陥らないように十分な説明を行う。日常の注意点として,症状の増強しやすい状況となる寒冷曝露を避けること,睡眠不足を避けること,ストレスを避けること,喫煙を控えること,などが挙げられる。
②内服薬による治療
片側顔面痙攣を適応とする内服薬はなく,一般にその効果は乏しいことが多い。しかし,発症からの経過が短く症状が軽度の場合,ボツリヌス治療や患者が手術を希望しない場合には,簡便で経済的な面も考慮して,対症療法として,クロナゼパムなどの内服薬をまず投与してみる。効果の判定は数週とし,効果がある場合には継続する。効果がない場合や眠気などの副作用が強い場合には別の内服薬を試みるが,原則として効果がなければ数週で中止し,ほかの治療法の選択を患者に勧める。また,血圧が高い場合には降圧薬の投与で顔面痙攣が改善することもある。
③ボツリヌス治療
根治療法である手術よりも,対症療法であるボツリヌス治療を第一選択とする諸外国のガイドラインもあり,片側顔面痙攣に対する有効性と安全性が確認されている。内服薬による効果がない場合,手術を希望しないあるいは受けられない場合や,手術で効果が得られなかった場合には,ボツリヌス治療を選択する。片側顔面痙攣は命に関わる病気ではなく,いきなり手術を希望する患者は少ないことから,ボツリヌス治療による対症療法を希望する場合が多い。
痙攣をきたしている筋肉に細かくわけて(数箇所から十数箇所にわけて)施注する。3~6カ月に1度の頻度で加療する。特殊な神経・筋疾患を有する場合や妊娠中は禁忌である。コスメティックな理由で(左右差をきたさない目的で)反対側にも施注する場合もある。
④神経血管減圧術(いわゆるJannettaの手技)
片側顔面痙攣に対する唯一の根治療法であり,血管と顔面神経の間にクッションを置き減圧する手術である。手術での治癒率は術者により異なるが,90~98%近いとの報告がある。しかし,発症して間もない場合や症状が軽度な場合には,手術を希望しない場合も多い。約10%に手術による難聴がみられるため,反対側に難聴がある場合には禁忌であり,手術ではなくボツリヌス治療が推奨される。
【参考資料】
▶ 日本神経治療学会治療指針作成委員会:神経治療. 2008;25(4): 478-93.
林 明人(順天堂大学大学院医学研究科脳神経内科特任教授)
出典:Web医事新報
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