メディカルサポネット 編集部からのコメント天気が悪くて頭痛がしたり、緊張で頭痛になったり、かと思えばくも膜下出血での頭痛だったり、髄膜炎だったり軽症から緊急性が高い症例まで、頭痛には様々な原因があるので、診断も難しいです。 病歴聴取のポイントから治療まで、伊藤壮一 麻生総合病院救急総合診療科部長が解説します。 |
▶病歴聴取のポイント
頭痛の原因は様々である。いつ,どこで,何をしているときに発生したのか,発症は急性か慢性か,強弱,部位,持続時間を十分に聴取する。他の疾患のない一次性頭痛と,他の疾患に起因する二次性頭痛にわけて病歴を聴取する。代表的な疾患の症状と病歴は以下の通りである。
【一次性頭痛】
慢性頭痛と言われる頭痛で,頭痛患者の9割が該当する。
片頭痛:月に1〜数回の反復性頭痛が生じる。1日中継続,拍動性,片側性もしくは両側性,中等度~重度の強さの発作(持続時間4~72時間)が起こり,随伴症状として悪心・嘔吐,光・音過敏症を伴う。前駆症状(閃輝暗点)を伴うことも多い。
緊張型頭痛:数十分~数日間,継続する。一般に両側性,圧迫感または絞扼感(非拍動性),軽度~中等度の強さが持続し,日常的な動作による増悪はない。
群発頭痛:厳密に片側性で,重度の頭痛発作(持続時間15~180分)が起こる。眼窩・眼窩上部・側頭部の1つ以上の部位に数週~数カ月間群発する。アルコール摂取により誘発される場合がある。発症年齢は通常20~40歳で,男性の有病率は女性の3倍である。
【二次性頭痛】
原因がある器質的疾患による頭痛で,頭痛患者の1割程度が該当する。くも膜下出血のような致死的な頭痛が含まれる。
くも膜下出血:人生で初めて経験するような激しい突然の頭痛で発症する。持続性で,「頭をハンマーで殴られたような」「頭に雷が落ちたような(雷鳴頭痛)」などと表現され,数秒~数分でピークに達する。典型例では頭痛は重度であるが,中等度の場合もある。
低髄圧:体位による変化で頭痛が生じる。坐位または立位をとると間もなく悪化し,臥位をとると改善する。5日以内の腰椎穿刺,あるいは頭痛の発現に一致した外傷の既往歴がある。
髄膜炎・髄膜脳炎:髄膜炎症の徴候として頭痛が生じる(ほかに,項部硬直,発熱など)。髄膜は頭部全体ないし項部領域である。精神状態の変化(覚醒度の低下を含む),局所神経学的欠損や痙攣発作を伴う場合は,ウイルス性脳炎を強く疑う。
脳腫瘍:頭痛増強の誘因がある。朝または臥位,息こらえ等で力んだときに悪化し,悪心・嘔吐を伴う。がんの病歴では転移性脳腫瘍を疑う。
三叉神経痛:片側性で短時間(通常2分以内)の電撃痛(電気ショックのような,突き刺すような痛み)を繰り返す。三叉神経枝の支配領域に限定し,トリガー部位への非侵害刺激(歯磨き時のブラシの接触等)によって誘発されることが多い。神経血管圧迫が原因の場合は第2枝または第3枝領域が多い。
▶バイタルサイン・身体診察のポイント
【バイタル】
頭蓋内圧亢進(頭蓋内占拠性病変など):血圧上昇に徐脈を伴う(クッシング現象)。
高血圧性頭痛(発作性血圧上昇,高血圧性脳症など):収縮期血圧≧180mmHgまたは拡張期血圧≧120mmHg。頭痛を伴う意識障害があるならば意識障害の鑑別を優先する。
【一般身体診察】
身体診察は重症度を考慮して速やかに行う。
発熱を伴う頭痛の場合には,詳細な身体診察を優先させる。髄膜刺激症状(ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候,jolt accentuation)の有無は重要である。
▶緊急時の処置
一次性頭痛では緊急処置は不要であるが,以下の二次性頭痛では緊急処置を要する。
脳出血・くも膜下出血:静脈路を確保し降圧を行う。くも膜下出血では鎮静も行う。
抗凝固薬内服中の頭蓋内出血急性期:中和薬の投与を行う。
脳ヘルニア徴候のある頭蓋内出血:呼吸障害の有無を判断した後に,酸素投与を行う。浸透圧利尿薬の投与および一時的過換気療法を行う。脳血流を低下させるため,過度の過換気は避ける。
▶検査および鑑別診断のポイント
【頭部単純CT】
頭痛の鑑別においては,まず行うべき検査である。脳出血,くも膜下出血などが診断できるが,血量が少ないminor leakageや貧血,出血から数日以上経過している場合には見落としやすくなるので,注意が必要である。
【頭部MRI/MRA】
頭痛を伴う急性期脳梗塞は稀である。脳梗塞や脳動脈解離を疑う場合には,拡散強調画像が有効である。見逃しやすい条件下のくも膜下出血において,FLAIR画像は少量の出血を検出しやすい。ヘルペス脳炎ではFLAIR画像による髄膜増強効果が早期検出に有効である。MRAは脳動脈瘤,脳動静脈奇形,脳動脈解離の検出に有用である。
【血液検査】
二次性頭痛の鑑別のため,特に感染症の合併に関しての血算,炎症反応を含む生化学検査を行う。
【脳髄液検査】
髄膜炎や脳炎,くも膜下出血の確認が必要な場合に実施する。頭蓋内圧亢進症状や,出血傾向,頭部単純CTで頭蓋内に脳圧亢進を示す占拠性病変がある場合には禁忌である。髄膜炎や脳炎では,起因菌,起因ウイルス同定に必須である。
▶落とし穴・禁忌事項
一次性頭痛を強く疑う病歴・身体所見でも,緊急性を判断の上で原則として画像検査(CTもしくはMRI)を行い,二次性頭痛を鑑別する。
▶その後の対応
【一次性頭痛】
〈片頭痛・緊張型頭痛〉
片頭痛を強く疑う病歴であっても,未治療の場合は,まずは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方し,専門医への紹介を考慮する。
▶一手目 :カロナールⓇ錠(アセトアミノフェン)1回500~600mg(頓用),空腹時を避けて1日3回まで
▶二手目 :〈嘔吐を伴う場合や症状が強い場合,処方変更〉アセリオⓇ注(アセトアミノフェン)1回1000mg(体重50kg未満では15mg/kg),15分かけて点滴静注
▶三手目 :〈臨床的に片頭痛の診断がくだせる場合,処方変更〉リザトリプタン10mg 錠(リザトリプタン安息香酸塩)1回1錠(頓用)
ただし,脳動脈に狭窄がある場合は脳梗塞に至るため,初回内服時にはMRIおよびMRAの検査は必須である。
〈群発頭痛〉
発作時の酸素吸入により,15分以内に効果が認められる。
▶一手目 :酸素(>90%)を15分間吸入(マスク7L/分)
▶二手目 :〈嘔吐を伴う場合や症状が強い場合,一手目に追加〉アセリオⓇ注(アセトアミノフェン)1回1000mg(体重50kg未満では15mg/kg),15分かけて点滴静注
▶三手目 :〈処方変更〉イミグランⓇ注(スマトリプタンコハク酸塩)1回3mg(皮下注)
【二次性頭痛】
▶一手目 :必要な緊急時の処置を行うとともに,専門医にコンサルテーション
【参考資料】
▶ 頭痛の診療ガイドライン作成委員会, 編:頭痛の診療ガイドライン2021. 日本神経学会, 他, 監. 医学書院, 2021.
▶ 日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会, 編:脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画, 2021.
▶ 日本内科学会専門医制度審議会救急委員会, 編:内科救急診療指針2022. 総合医学社, 2022.
伊藤壮一(麻生総合病院救急総合診療科部長)
出典:Web医事新報
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