メディカルサポネット 編集部からのコメント肺炎の中で病院外で発症した肺炎を市中肺炎と呼びますが、その治療法を寺本信嗣 東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科教授が解説します。通院の場合・入院の場合、基礎疾患のあり・無し、肺結核、非定型、反復性誤嚥性肺炎、新型コロナウイルスの場合をとりあげて説明。一手目、二手目でどのように対処しているかがわかります。 |
▶診断のポイント
急性発症の咳,痰などの気道症状に発熱を伴う場合に肺炎を疑い,胸部X線画像検査で肺野の浸潤影を確認して診断する。痰の性状も重要で,透明であることはなく黄緑,褐色調である場合が多い。臭いが伴う場合もある。通常は38℃以上の発熱を伴う。ただし,高齢者のCAPは誤嚥性肺炎を含むので,微熱のこともある1)。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
検査が可能な施設であれば喀痰検査を行い,原因菌を精査する。尿中抗原検査,血液検査を行い,原因特異的な治療を開始する。入院か外来治療かはA-DROPスコアを参考とするが,当院では血液検査でWBC 2万/μL以上,CRP 20mg/dL以上の重症肺炎かどうかを基準としている。ほかに,全身状態が悪い,食事がまったく摂れない,重篤な基礎疾患がある,なども入院加療となる。喀痰検査をしても当初はエンピリック治療にならざるをえないため,入院の場合はβラクタマーゼに安定化されたペニシリン系抗菌薬投与を原則とする。
胸部X線画像検査はできるが血液検査ができない場合,両側性で多葉性の場合は予後不良となるため,専門機関へ紹介する。専門機関に紹介できないときは,セフトリアキソンナトリウム水和物(CTRX)2gを1時間で点滴静注後,ニューキノロン系抗菌薬の内服加療とし,翌日も受診を促す。肺炎像の悪化がなければ治療継続とする。悪化している場合,初期治療が奏効しない可能性を考慮して,高次医療機関への紹介を試みる。
血液検査のみで画像検査ができない場合は,腹部所見やCVA(脳血管障害),副鼻腔炎や扁桃膿瘍などがなく,喀痰があり痰の性状が感染様であれば,聴診所見で肺野の左右差を確認した上で,抗菌薬投与を開始する。基礎疾患のない患者ではサワシリンⓇ(アモキシシリン水和物)とオーグメンチンⓇ(アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム)を併用する。糖尿病,慢性呼吸器疾患の基礎疾患があれば,ニューキノロン系抗菌薬を第一選択とする。高齢者で外来の誤嚥性肺炎の場合も,まずはユナシンⓇ(スルタミシリントシル酸塩水和物)で治療し,その後,ニューキノロン系抗菌薬を選択としている。
▶治療の実際
【外来治療の場合】
〈基礎疾患のない成人〉
▶ 一手目 :サワシリンⓇ250mgカプセル(アモキシシリン水和物)1回1カプセル1日3回(毎食後),オーグメンチンⓇ配合錠125SS(アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム)1日3錠 分3(毎食後)併用
▶ 二手目 :〈処方変更〉ラスビックⓇ75mg錠(ラスクフロキサシン塩酸塩)1回1錠1日1回(朝食後)
〈基礎疾患のある高齢者〉
▶ 一手目 :ユナシンⓇ375mg錠(スルタミシリントシル酸塩水和物)1回1錠1日3回(毎食後)
▶ 二手目 :〈処方変更〉ラスビックⓇ75mg錠(ラスクフロキサシン塩酸塩)1回1錠1日1回(朝食後),またはグレースビットⓇ50mg錠(シタフロキサシン水和物)1回2錠1日2回(朝・夕食後)
〈肺結核疑いの肺炎症例〉
▶ 一手目 :オゼックスⓇ150mg錠(トスフロキサシントシル酸塩水和物)1回1錠1日3回(毎食後)
▶ 二手目 :〈抗酸菌塗抹検査で陽性の場合,治療変更〉TB-DNA-PCR検査および培養検査を追加し,肺結核を確認後,隔離入院施設に紹介
〈非定型肺炎が強く疑われる場合〉
▶ 一手目 :クラリスⓇ200mg錠(クラリスロマイシン)1回1錠1日2回(朝・夕食後),またはジスロマックⓇ錠(アジスロマイシン水和物)1回2g(単回投与)
▶ 二手目 :〈処方変更〉ジェニナックⓇ200mg錠(メシル酸ガレノキサシン水和物)1回2錠1日1回(朝食後)
【入院治療の場合】
〈基礎疾患のない成人〉
▶ 一手目 :ユナシンⓇ-S注(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム)1回3g 1日3~4回(点滴静注)
▶ 二手目 :〈処方変更〉クラビットⓇ注(レボフロキサシン水和物)1回500mg 1日1回(点滴静注)
〈基礎疾患のある高齢者〉
▶ 一手目 :ゾシンⓇ注(タゾバクタム・ピペラシリン水和物)1回4.5g 1日3回(点滴静注)
▶ 二手目 :〈処方変更〉ラスビックⓇ注(ラスクフロキサシン塩酸塩)初日:1回300mg,2日目以降:1回150mg 1日1回(点滴静注)
〈反復性誤嚥性肺炎〉
▶ 一手目 :ゾシンⓇ注(タゾバクタム・ピペラシリン水和物)1回4.5g 1日3~4回(点滴静注)
▶ 二手目 :〈処方変更〉ラスビックⓇ注(ラスクフロキサシン塩酸塩)初日:1回300mg,2日目以降:1回150mg 1日1回(点滴静注)
〈新型コロナウイルス感染症による肺炎の場合〉
SpO2 93%以下か,酸素投与が開始されたら,原則以下の3剤を併用する。Dダイマーを測定し,ヘパリン投与検討
・ベクルリーⓇ注(レムデシビル)初回:200mg,2回目以降:100mg(点滴静注)5~10日間
・デキサートⓇ6.6mg注(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム)1回1バイアル1日1回(点滴静注)7~10日間
・オルミエントⓇ4mg錠(バリシチニブ)1回1錠1日1回(朝食後)最大14日間
【文献】
1) Teramoto S, et al:Respir Investig. 2021;53(5):178-84.
寺本信嗣(東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科教授)
出典:Web医事新報
- 採用のご相談や各種お問合せ・資料請求はこちら【無料】
Parts:
内容:お役立ち資料